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発想の転換で世界を変える、イノベーションの本質とは?

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    2014年10月、建築金物総合メーカーの株式会社ナスタが、従来品より受け口を10ミリ広げた戸建住宅用郵便ポスト「Qual(クオール)」を発売しました。

    この郵便ポストは、ただの新製品ではありません。社会に何百億円もの経済効果をもたらす可能性を秘めた、イノベーティブな製品なのです。

    ここまでで何の話をしているのかピンと来た人は、ビジネス感度の高い人だと言えるでしょう。ポイントは、受け口を10ミリ広げたこと」。なぜ住宅用ポストの受け口を10ミリ広げたのか、そのことがなぜ何百億円もの経済効果につながるのか——。今回は、「Qual(クオール)」の開発物語を通して「イノベーションとは何か」を考えてみたいと思います。

     

    開発のきっかけ

    新しい住宅用ポストの開発は、アマゾンジャパンがナスタに話を持ちかけたところから始まりました。アマゾンジャパンは再配達コストの圧縮のために様々な手を打ってきたのですが、大きな効果が出ていませんでした。この問題を根本的に解決するには「配達先の家が留守でも品物を投函できるよう、ポストそのものを変えてしまうしかない」と考えたのです。

    ナスタの社長、笹川順平氏は後に「外資系の、e-コマースの会社だからできた大胆な発想で、国内の物流企業にはポストそのものをつくり変えることなど思いもつかなかったのではないか」と、話したそうです。

    アマゾンジャパンは、住宅用ポストでシェア1位のメーカー、ナスタに共同開発の話を持ちかけます。ナスタの笹川社長は話を聞き「これはやらなければならない」と、その日のうちに新製品の開発の乗り出すことを決意します。

    従来品より受け口を大きくしたポストにすることで、家主が留守でもメール便や大型郵便物を投函できるようになります。配送会社、通販会社はもとより、一般消費者にとっての利便性を飛躍的に向上させることでしょう。従来品より受け口を大きくしたポストをつくることには、社会的に大きな意義がある。笹川社長は、直感的にそう感じたのです。

    会社に戻り、アマゾンとのポスト共同開発を会議にかけると強い反対にあいました。「ポストの受け口は3cmと決まっている。取引先は買ってくれないだろう」。

     

    反対への打開策

    社内からの反対の原因は、笹川社長と会社の背景の違いにもあったかもしれません。笹川社長は、1975年生まれで、2015年現在40歳。三菱商事、マッキンゼー・アンド・カンパニーで勤務した後、2008年に株式会社キョーワナスタ(現ナスタ)に入社してきた〝外様〟。しかも、2013年に社長に就任したばかりの、まさに若い社長です。

    一方、ナスタは、1930年創業の老舗企業で、世間的な知名度には欠けますが、建築金物の業界ではリーディングカンパニーの地位にあります。しかし、リーマンショック以降の売り上げの落ち込みが回復せず、社内を活性化させる施策が求められていました。

    「経営改革に取り組む若い社長」と「老舗企業の保守的な会社幹部」との間で軋轢があったことは想像に難くありません。笹川社長は、社会的に大きな意義のある仕事であることを訴えながら、新しい住宅用ポストの製造に向けて全社的な態勢を整えていきました。住宅用ポストはステンレス製が常識でしたが、それを樹脂製に切り替え、全て自社工場で製造することにしたのです。

    画期的な製品の製造行程がすべて自社で行われる。社内に「自分たちが世の中を変えていける」という意識が浸透し、社員のモチベーションが高まっていきました。

    笹川社長は、「売り上げを減らしたとしても、ナスタを、新しい価値を提供する〝社会にとって意義のある会社〟にしていきたい」と考えていました。この住宅用ポストの開発・製造・販売を通じてその目標に確実に近づいたことでしょう。

     

    Qual(クオール)」という画期的製品

    「Qual(クオール)」は、e-コマース時代に対応する画期的な新製品です。生活者のライフスタイルを変える可能性を持ち、再配達コストを大きく削減するという意味で、社会に新しい価値を提供する製品だと言えます。ナスタの説明によると、再配達コストが年間600億円にも達する事業会社もあるそうです。

    従来のポストの受け口を10ミリ広げたことで、それまで配達できなかったメール便や大型郵便物をポストに配達できるようになりました。製品自体に、画期的な新技術が採用されているわけではありません。新しい価値の創造こそが「イノベーション」の本質であると捉えれば、技術の開発を伴わなくともイノベーションは起こすことができるのです。

    笹川社長は「抵抗や反対のないところにイノベーションは生まれない」と語っています。既成の発想、既成の態勢を打ち破ってこそ、新しい価値の創造が生まれるということを指摘しているのでしょう。

    ※参照元
    sankeibiz「時代の人 日本を面白くする企業」
    http://www.sankeibiz.jp/special/jidai/contents/0008/001.html

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