公式HP サーブコープブログ知識・ノウハウ「改正水道法」で水インフラへの影響は?|いまさら聞けない時事問題 Vol.2

「改正水道法」で水インフラへの影響は?|いまさら聞けない時事問題 Vol.2

日本では敬遠されがちな時事問題ですが、社会の動向はビジネスにも影響します。忙しいビジネスパーソンのために、いまさら聞けない時事問題を分かりやすく解説するシリーズ。Vol.2は昨年12月に成立した「改正水道法」(水道民営化)を取り上げます。

3月22日は国連が定めた、水資源の重要性について考える「世界水の日」でした。日頃「水」について考える機会はあまり多くないと思いますが、2018年12月の国会で成立した改正水道法により、日本の水インフラも大きく変わるかもしれません。

現在、水道事業は自治体などの公的機関が担っていますが、この法律により事業の運営権が民間企業へ売却されやすくなります。海外では水道民営化の失敗が相次ぎ、野党は法案の成立に強く反対。しかし衆議院での審議時間は8時間足らず、参議院での議論も極めて短時間で幕を閉じました。

論点が国民に伝わらぬまま今日に至っていますが、水道の問題は、日本に暮らすすべての人たちが末長く向き合わなければならない重要なテーマ。主要な論点を整理しました。

(1)全国の水道管15%が法定耐用年数オーバー。各地でトラブル頻出
(2)水道管の修理は1kmあたり1億円、修理費10兆円を払うのは誰?
(3)パリは民営化で水道料金が265%増。世界では267の失敗例
(4)施行は2019年秋。今後の課題は?

(1)全国の水道管15%が法定耐用年数オーバー。地震で断水に

まず、日本の水道インフラが危機的状況にあることは、与野党ともに異論の余地がありません。

日本の水道普及率は約98%と世界でもトップクラスで、水道管の長さは計66万km。この長さは地球16周分に相当しますが、そのうち約15%もの水道管が法定耐用年数の40年をオーバーしています。

日本の水道管の多くは高度経済成長期に整備されましたが、特に大阪府の水道管の老朽化はすさまじく、府内の3割が耐用年数をオーバーしています。昨年6月、大阪府を最大震度6弱の地震が襲いましたが、その影響で約9万戸が断水に。実はこうした水道管のトラブルは、大阪府に限らず全国的に増加しています。

(2)水道管の修理は1kmあたり1億円、修理費10兆円を払うのは誰?

水道管の早急なリニューアルが必要ですが、話はそう簡単ではありません。

水道管の修復費用はざっくりとした試算で1kmあたり1億円とも言われており、法定耐用年数を超えている分を修理するだけでも約10兆円が必要です。水道事業は各自治体が担っているので、リニューアルコストは住民の水道料金にダイレクトにのしかかってきます。

ここで無視できないのが、水道料金の地域差。今、兵庫県赤穂市の水道料金は853円と全国で最も安く、最も高いのは北海道の夕張市で6841円。実に8倍もの格差があることはあまり知られていません。これには人口密集度も大きく関係し、広い土地に人口が少なければ一人ひとりの負担は高まります。今後、水道管を修理費すれば、さらに水道料金という形で跳ね返り、放置すれば破綻は確実。そこで政府が持ち出したのが今回の改正水道法です。

家事用20㎡たりの水道料金

水道料金の高い地公体

水道料金の低い地公体

北海道夕張市6,841円兵庫県赤穂市853円
青森県深浦町6,588円山梨県富士河口湖町985円
北海道由仁町6,379円静岡県長泉町1,120円
北海道羅臼町6,360円静岡県小山町1,130円
北海道江差町6,264円和歌山県白浜町1,155円

参照:公益社団法人 日本水道協会発行「水道料金表」平成28年4月1日

(3)パリは民営化で水道料金が265%増。世界では267の失敗例

改正水道法のポイントは、水道事業に「コンセッション方式」を導入しやすくなったこと。コンセッションとは、空港や道路などの公共インフラの運営権を民間へ売却することを指します。「民間のノウハウで効率的な事業運営ができ、財政健全化にも役に立つ」とのメリットがあげられています。

海外では、すでに多くの都市で水道民営化が試みられてきました。ところが、各地で水道料金の高騰や水質の低下などが相次ぎ、次々と失敗。一度は水道民営化へと舵を切りながらも再び公営化した例は多数あります。

例えばフランスのパリでは1985年に民営化し、水道料金が265%増という信じられない高騰を見せ、そのうえ水質も下がったことで2009年に再公営化。アメリカのアトランタ州でも民営化で水道料金は上昇、一部では濁った水が出るようになり、わずか4年で公営に戻しました。

一度は民営化したドイツ・ベルリンも、14年後には再公営化に踏み切りました。民間企業から運営権を買い戻すために支払った13億ユーロ(1600億円)は、今後30年をかけて市民の水道料金に上乗せされることになっています。

世界の都市を見渡せば、2000年から2016年の間に民営化をやめた事例は32カ国、267件にものぼります。失敗例の多くはやはりコンセッション方式だったと言われており、野党は国会で「なぜ世界のトレンドに逆行するのか」と批判しましたが、十分な議論がないまま法案は成立しました。

④施行は2019年秋頃。今後の課題は?

「改正水道法」の施行日は2019年10月頃が有力視されていますが、コンセッション方式を導入するかどうかは各自治体に委ねられています。群馬県の山本龍前橋市長は昨年12月の会見で、コンセッション方式を導入しない方針を明言しましたが、一方で導入に積極的な自治体名も多数あがっています。

企業からすれば、利益が上がらない事業など請け負う意味がありません。海外で起きた水道料金の高騰や水質の悪化といった前例は、利益追求やそれに伴うコスト削減の結果です。民間に運営を委ねるなら、それなりの影響は覚悟する必要があるでしょう。

水は生活を支える大事なライフライン。まずはそれぞれの自治体が、人口推移に基づいた料金の変動幅や、水道の維持・修理費用を詳しく予測、どの程度の値上げが妥当なのかを算出し、コンセッションだけでなく、水道事業の広域化や自己水源化など、さまざまな選択肢を用意したうえで、自治体や住民間の合意形成を図ることが必要ではないでしょうか。


監修:猿川 佑氏
ジャーナリスト、雑誌編集者。政治・社会問題からライフスタイルやファッションまで、扱う分野は多岐にわたる。

 

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