ABWとは?導入方法やフリーアドレスとの違い、注意点や企業事例を解説
ABW(エービーダブリュ)とは、働くスタイルを意識的に選べる柔軟な働き方とその環境を指します。働き方改革の推進や人材獲得競争の激化を背景にABW導入を検討する企業の方向けに、本記事ではABWの定義、導入した場合の効果・メリットからデメリットと課題、実際に導入している企業事例まで詳しく紹介します。
ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)とは?
ABWとは、「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略称で、従業員が仕事に関わるあらゆる活動のスタイルをより意識的に選択できるよう促す仕組みのことです。
元々は、オランダのワークプレイスコンサルティング会社「Veldhoen + Company(ヴェルデホーエン・プラス・カンパニー)」が提唱したフレームワークで、2010年代からグローバル企業を中心に導入が進みました。「ABWは、仕事を『しなければならない場所』ではなく、『自分の力を発揮できる場所』に変えるものである」という考え方で、日本国内でもコロナ禍をきっかけとして新しいワークプレイスの構築において、ABWを取り入れる企業が増えています。
従来のオフィスでは従業員が部門ごとに同じ場所に集まることが一般的な働き方ですが、近年はクラウドツールやビデオ会議システムなどテレワークの普及で、場所に縛られない柔軟な働き方が可能になりました。 働く環境を自ら選択できるABWに改めて注目が集まっています。
広義のABWと狭義のABW
ABWを取り入れる際、その範囲を「オフィス」に限らず自宅やカフェ、リゾートオフィスなどを含めてその選択肢を増やすことと捉えるのが広義のABWであり、あくまでも自社オフィス内のワークスペースの自由度を高めることと捉えるのが狭義のABWです。自社で検討する際はどちらを取り入れるか、初期段階で検討しましょう。
ABWとフリーアドレスとの違い
ABWと似た仕組みに「フリーアドレス」があります。他の従業員とのコミュニケーションの活性化やオフィスの維持コストの削減という点でフリーアドレスとABWは共通していますが、両者には明確な違いがあります。
フリーアドレスはオフィス内に固定の席を持たず、ノートパソコンやタブレット端末などを用いて好きな席で働く仕組みですが、ABWは仕事の目的に応じて場所が選べる仕組みです。つまり、ABWは単に「席が固定されていない」ということではなく、選択肢が豊富であるという点が異なります。生産性や業務効率の向上に着目した働き方と言えるでしょう。
フリーアドレス | ABW | |
固定席の有無 | なし | 固定席を用意した上でさらにスペースを選べる場合も |
働く場所の選択肢 | 社内のフリーアドレスエリア内に設置 | 自宅やカフェなども選択肢に入る |
席の種類や配置 | 共通する一種類でもよい | 多種多様な空間を用意 |
ABWの働き方の例
「自分の力を発揮できる場所で働く」というABWの働き方のイメージを具体的に解説します。あくまで一例であり、自社の社員のニーズや仕事内容によって事例はさまざまです。
<営業職、子育て中の30代男性>
【AM8時 個別ブース】 保育園の送り出しは妻に任せて早朝出社。会話禁止個別ブースで企画書作成と回覧書類のチェック。このスペースでは電話対応や声かけが禁止のため、集中できる。
AM10時:得意先でのプレゼンテーション。検討課題が出たため社に持ち帰ることに。
【AM11時 サテライトオフィス】 顧客の最寄り駅にあるサテライトオフィスで顧客からの要望をまとめて技術部門に送信。打ち合わせの時間を決めておく。
PM12時:オフィスのランチスペースで一緒に食事をとりつつ後輩の相談にのる。
【PM2時 ミーティングブース】 研究所にある技術部門スタッフとオンラインミーティング。上司同席の打ち合わせのため大型モニターとカメラのあるミーティングブースで実施。
【PM3時 資料室の閲覧コーナー】 資料室の閲覧コーナーで過去の制作物を確認。
PM4時:保育園のお迎えは自分の担当。コアタイムが終わったらいつでも退勤可能。
PM8時:子どもを寝かしつけつつ、メールチェックだけ済ませておく
ABWの効果は? 注目される理由
ABWの効果をデータで確認しましょう。ABWに関する総合コンサルティング会社Veldhoen + Company(本社:オランダ アムステルダム)は世界11か国、16の組織における29のプロジェクトから得られた30,000件以上のデータを用い、ABWに移行する前と後を調査(※1)。分析した結果、図にある4項目に対して改善が見られたとまとめています。
ワークプレイスにおける総合的な満足度が17%向上
個人の生産性が13% およびチームの生産性が8%向上
組織文化が11%改善
職場に対する帰属意識が4%向上
また、同レポートでは、どこでどのように仕事をするのが自分にとって最適なのか、従業員が自分自身で理解し、選べるようにすることが成功の秘訣だとも分析しています。
・従業員の働き方とワークプレイスの構成が合致している。
・多様な働き方がもたらす柔軟性と選択権を従業員が実感できている。
この2点が伴わない場合、オフィスを新しくモダンに変更しても、逆に非効率を拡大させ、生産性を下げてしまう可能性があることに注意が必要です。
ABW導入のメリット
もう少し具体的に、ABWを導入するメリットについてみていきましょう。
1. 業務効率が上がる
従業員が自ら働く時間と場所を選べるため、業務内容に適した環境で働くことが可能です。その結果、業務効率が上がり、1人の従業員が生み出す利益の向上が期待できると言われています。
2. コミュニケーションの活性化
従業員がオフィス内外で働ける時間と場所を選べるようになれば、他部署の従業員とより円滑にコミュニケーションが図れるため、今までにはないアイデアの創出やお互いのモチベーションアップへの寄与などが期待できるでしょう。
3. オフィスの維持コストの削減
ワークスペースを整備することで、オフィスの合理的な利用につながり、無駄なスペースを見直す機会になります。たとえば広すぎる会議室、使用していないワークスペースなどを削減すれば、オフィスの維持コストを抑えられます。
4. 国内外の優秀な人材の確保
優秀な人材はワークライフバランスを重視して企業を選ぶ傾向があります。そのため、ABWで自由な働き方を提供することで、国内外の優秀な人材の獲得につながるでしょう。
5. 従業員のモチベーションアップ
働く場所が柔軟になれば、通勤ラッシュを避けることもでき、移動のストレスが減ります。営業先から帰社する必要もなくなれば、時間を有効に使えるでしょう。ワークライフバランスが整って充実感が増し、仕事に対するモチベーションが上がる結果にもつながります。
同じ会社のなかで作業スペースを複数設置することで、部署間を超えた移動が可能になり、今まで交流のなかった従業員とコミュニケーションが生まれることも。コワーキングスペースの機能を持った空間を導入する企業も増えています。
ABW導入のデメリットや課題
メリットの多いABWですが、デメリットや対応すべき課題もあります。
1. 勤怠管理やマネジメントがしにくい
「自由に働く場所を選べる」ということは「誰がどこでどのように働いているか分かりにくい」ということでもあります。そのため、勤務状況の把握やマネジメントがしにくいというデメリットがあります。報告ルールの制定や上司と部下の間や、チーム内でのコミュニケーションの機会をどのように設けるか事前に設定することが重要です。
2. 環境整備や社内浸透に時間・費用がかかる
ITツールやネットワーク環境、セキュリティなどの整備、また上記のデメリットを解消するための運用ルールや人事評価の見直しが必要です。また、運用開始後も従来通り決まった場所や席で働く人が多く、期待したような生産性の向上やコラボレーション効果が生まれないケースもあります。定期的な働きかけを行う必要があるでしょう。
ABWに向いている企業や部署の特徴
魅力的なABWですが、すべての業態の企業に適しているわけではありません。特にABWに向いている企業や部署について、その特徴を解説します。
テレワークやハイブリッドワークを取り入れている
すでにテレワークやハイブリッドワークを導入している場合、ABWの導入は多くの社員に違和感なく受け入れられるでしょう。時間帯や部署によって利用率が低かったスペースを活用したり、削減して他の分野に投資したりすることで全体最適化につながります。
ITツールを積極的に活用できる
クラウドツールやテレビ会議システムなど、もともとITツールを業務に積極的に導入している場合、業務の取り組み方に変化が小さいため、ABW定着までの時間も短くなります。それらのツールを問題なく利用するための安全・高速なインターネット環境や機器が全社に行き渡っていることが前提です。
部署や部門を超えたプロジェクトが多い
「営業担当と制作担当がチームを組んでプロジェクトを推進する」
「定期的に製造部門・物流部門・販促部門での共同作業が必要になる」
「プロジェクトごとに社内のさまざまなメンバーがチームを作る」
など、社内横断的な業務ではその時々で必要なスペースに集まれるABWが業務効率化と組織力向上に役立ちます。
社外との連携や協業が多い
子会社など関連企業、取引先など社外との連携・協業が多く、社内スペースでの打ち合わせや作業が不可欠な場合にも柔軟に対応できるのがABWです。この場合、社員限定で利用できるエリアと、許可を受けたメンバーならいつでも自由に利用できるエリアを分けておくことで運用負荷を軽くすることができます。
ABWを導入する方法とポイント
ABWを自社に導入する際の、検討の流れとそのポイントを解説します。
ABW導入の目的を明確にする
「従業員が仕事に関わるあらゆる活動のスタイルをより意識的に選択できるよう促す仕組み」であるABWを何のために導入するか、その目的を明確にするところから導入計画はスタートします。
この目的があいまいなまま、デザイン重視のレイアウトを組んで表層的なABWを進めてしまうと、従業員が活動スタイルを選択することでデメリットの方が強く影響してしまうことがあります。
この導入の目的は従業員にも共有し、早い段階から意識醸成をはじめましょう。
現状調査と課題の洗い出しを行う
現時点でのオフィスの利用状況や従業員自身が感じている課題や問題について集約します。この時、オフィスそのものへの不満、たとえば「会議室の予約が取れない」「外線電話に対応してくれるスタッフが不足している」「過去の営業資料の保存スペースが足りていない」といった具体的な内容はもちろん、「仕事の負担に偏りがある」「自分の担当業務ではない雑務に当たっている時間が長すぎる人がいる」「コミュニケーションの機会が少なく、クライアントへの提案準備が不十分なことがある」といった一見オフィスの課題とは関係なさそうな、業務上のすべての課題を洗い出しましょう。
ICT環境やセキュリティを整備する
ABWをスムーズに進めるには、セキュリティレベルの高いICT環境構築が欠かせません。PCやタブレットなどの端末をはじめ、業務支援システムや情報共有ツールなど、現場でしか対応できなかった業務負担の軽減を進めましょう。
オフィスのレイアウトを最適化する
部署の人数分のデスクを配置する一般的なオフィスレイアウトと異なり、ABWのオフィスレイアウトを図面化することは簡単ではありません。
業務をさらに細分化し、どのようなワークスタイルが必要なのか、また目的によってはワークスタイルのひとつひとつを制限したり活性化したりするための検討が必要です。また、空調機器や通信・電気設備、非常出口への安全な導線など、検討項目は多岐にわたります。
ある程度の規模の従業員を対象とするオフィスであれば、専門業者に依頼して複数のプランで比較・検討する必要があります。
自宅やオフィス以外のワークスペースを検討する
オフィス内部での選択肢、自宅でのリモートワーク以外にも、コワーキングスペースやサテライトオフィスなどの外部のワークスペースを活用する方法を検討するのもよいでしょう。
出張時や長期休暇、帰省時の一時的な業務対応が可能になったり、従業員の住所地を限定しないことで今まで出会えなかった優秀な人材の獲得が可能になったりといった効果が見込めます。
運用ルールや評価制度を明示する
ABWの「場」を用意しただけではスムーズに移行できません。あらかじめ発生する可能性のある課題を未然に解決するため、運用ルールを設け、周知徹底することは最低限必要です。
特に、評価制度については「社員の自主性が高まり、意識的に創造性、効率性などを向上させている」ことをどのように評価するか、実施前に明示し、社員教育などにも取り入れるのがよいでしょう。
定期的な見直しを行う
ABWは導入して終わりではありません。定期的に利用状況と従業員の満足度、業務パフォーマンスや目的の達成度などを観測し、不十分なところがあれば修正・変更に取り組む必要があります。
ABWに適したオフィス設計
ABWを実践するにはオフィスをどのようにゾーニングするとよいのでしょうか。代表的な例を紹介します。
フリーアドレス
ABWは個人デスクを持つことを必ずしも否定するものではありませんが、多くのケースでフリーアドレススタイルのワークスペースを設けます。デスクの大きさや明るさ、来客者の利用の可否や、立式スタイルのデスクなど、用途に応じて複数のタイプがあるとさらに効果的です。
集中エリア・静寂エリア
作業に集中するためのエリア、会話や電話禁止の静寂エリアをオフィス内に設けるため、個人作業の業務スピードアップや効率化が図れます。仕切りや防音ツールなどで対策すると環境を保ちやすくなります。
会議ブース・個室ブース
会議室とは別に、1人用、もしくは2人用の小さなミーティングブースも人気のあるワークスペースです。他の場所で働いているメンバーとのweb会議や、少人数でのクイックミーティングや1on1に便利な場所です。
コラボレーションスペース
部署や部門を超えたプロジェクト、ワークショップ、研修やイベントなどに活用するためのある程度の広さがあり、フレキシブルに什器・家具の異動が可能なスペースも確保しましょう。
リフレッシュエリア(休憩室・カフェテリア)
業務に集中するためには、適度な休憩も必要です。仮眠室やリラックスして同僚と歓談できるスペース、軽い運動ができるスペース、いつでも飲み物や軽食が取れるスペースなど、業務内容に応じて休憩に必要な設備と環境を検討しましょう。
ABWを導入している企業の事例
実際にABWを導入した3企業の事例を紹介します。
コクヨ株式会社
コクヨ株式会社は品川SSTオフィスにABWを導入し、メリハリのある働き方を実現。社員の通勤経路を調査し、通勤時間やコストをシミュレーション。社員が利用しやすいサードプレイスを拡充したり、業務内容や目的に合わせて選択できる環境を構築したり、柔軟な働き方を促進した結果、「有効に活用できた時間(可処分時間)」は35%向上し、社員アンケートでは、「時間に対しての意識」が導入前から15%上昇したといいます(※2)。
日鉄興和不動産
壁やデスクパーテーションを取り払い、多目的空間「MOVAL(ムーバル)」をオフィスの中央に設置。組織の壁を超えた会話・交流のきっかけを創出しています。また、組織の壁を越えた会話・交流のきっかけを創り出します。また、社員全員にモバイルPCとiPhoneを支給し、IT/ICT環境を充実させ、在宅勤務制度も導入し、子育てや介護をしながら働き続けたいという社員の意欲を支援しています(※3)。
メタウォーター株式会社
西日本事務所にABWの手法を取り入れリニューアル。固定席がなく、業務に合わせた席・場所の選択が可能で、行き先表示板電子化システムや在席システムを導入することで、社員がどこにいるかを把握。同社はABW導入について、労働時間の削減や業務効率化のためだけではなく、少子高齢化や人手不足などを背景とした労働市場環境の変化に適応することで、会社と社員の成長を目指すためとしています(※4)。
ABWに活用できるサーブコープのコワーキングスペース
ABWと一口に言っても、「固定席をなくす」「目的にあった場所を提供する」「在宅勤務を可能にする」「就業時間を柔軟にする」などスタイルはさまざまです。いずれにせよ社員の多様な働き方を認めることは、企業の成長において欠かせない福利厚生となりました。
働く場所の選択肢の一つとして、コワーキングスペースを利用する企業も増えています。社外の人とコミュニケーションを取ったり、新鮮な場所で新しい発想を生み出したりといったニーズにコワーキングスペースは対応できます。
サーブコープは元々オーストラリアで創業され、世界中のグローバル企業に支持されたサービス付きレンタルオフィス事業者です。日本国内では30拠点に、主要駅からのアクセスのよいランドマークとなるオフィスビルに展開しています。
ABWの考え方を実践できるさまざまなタイプのワークスペースをぜひご見学ください。
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(※1) Veldhoen + Company、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)に関するグローバル調査レポートを発行
(※2) コクヨ株式会社
(※3) 日鉄興和不動産株式会社 新卒採用サイト
(※4) メタウォーター株式会社