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ITジャーナリスト三上 洋氏に聞く!赤字覚悟のキャッシュレス決済還元キャンペーン、シェア争奪戦の現状とは

今年10月に予定されている消費増税。政府は増税後の景気落ち込みを避けるため、キャッシュレス決済をした人に買物額の最大5%をポイント還元する「キャッシュレス・消費者還元事業」を実施する予定です。

この流れに便乗し、キャッシュレス決済のシェア争奪戦に10種類以上のQRコード決済サービスが参戦。15%、20%、50%など、激しい「ポイント還元」キャンペーンを繰り広げています。シェア争奪戦の現状とは?また、米国や中国の動きやキャッシュレス決済のリスクについて、ITジャーナリストの三上洋さんに聞きました。

PayPay、LINE Pay…QRコード決済サービスは混乱の極み

参照:経済産業省「キャッシュレス・消費者還元事業」(https://cashless.go.jp/)

――今、キャッシュレス決済をめぐって何が起きているのでしょう?

根底には政府の動きがあります。消費増税による景気落ち込みを避けるため、経済産業省は「キャッシュレス・消費者還元事業」を実施しようとしています。これはキャッシュレスで決済した人がポイント還元を受けられる仕組みで、増税後の9カ月間にわたって実施される予定です。一点付け加えると、キャッシュレス決済を導入し、税金をスムーズに徴収できるようにしたいという別の思惑もあるようですが。

いずれにしても、この増税対策に後押しされ、QRコード決済のシェアを獲得しようとしているのが、「PayPay」「LINEペイ」「メルペイ」といったプレイヤー(会社)たちです。「ペイ」と名のつくQRを使ったスマホ決済サービスの数は10種類以上。もはや大混乱の極みに達しています。

残るのは何社? 赤字覚悟で還元キャンペーンを続ける理由

――キャッシュレス決済市場はそれほど儲かるビジネスなのでしょうか?

これが実は、利幅は薄いビジネスなんです。例えば「LINE Pay」は最大20%還元をやっていたし、「PayPay」は100億円還元キャンペーンまで打ち出しました。他にも購入額の「50%バック」など、常識では考えられないキャンペーンもありましたね。すべてはキャッシュレス決済の市場シェアを獲得するため。各社はほぼすべて持ち出しでやっています。

将来的には、店舗からキャッシュレス決済額の3%ほどの手数料を取るだろうと想定されていますが、その3%の中から今度は、クレジットカードからキャッシュレスにチャージするための手数料や決済代行会社への支払いが生じます。となると、手元には1%も残らない。

でも、もし高いシェアを獲得できれば、国内のキャッシュレス市場全体の1%弱を握れることになるので、それはとても大きい。だから各社、今は赤字覚悟で必死なんです。

ストリート芸人へのチップまでキャッシュレス? 中国、驚きの実情

――最終的に残るQRコード決済サービスは何社くらいですか?

2社か3社だと思います。

中国はほぼ現金一辺倒だったところにスマホ決済が登場し、「これは便利だ」ということで一気に普及が進みました。スマホの普及が一気に進んだことも一因でしょう。中国は結果的に2社になりました。中国版のAmazonであるアリババの「アリペイ」と、中国版のLINEと言われるウィーチャットの「ウィーチャットペイ」です。

一方で日本はクレジットカードやSuicaといったキャッシュレス決済がすでに定着しているので、中国ほど一気に広がるとは思えません。おそらく吸収合併や買収で統合されていくと思いますが、中国ほど進まない可能性も高いですね。

――中国ではどのくらいキャッシュレス化が進んでいるんですか?

2018年の末、中国の深セン市(しんせんし)に行きましたが、タピオカを売っている屋台から高級レストランまで、みんなキャッシュレス決済です。地下鉄の通路で大道芸人が芸を披露していましたが、大道芸人の前にダンボールが置いてあって、そこにQRコードが貼ってありましたからね。チップもキャッシュレス決済の時代に突入しています。

なぜ逆行? アメリカで「現金受け取り強制」法案が可決

――アメリカはどうでしょう。キャッシュレス化に逆行する動きもあると報じられていますが…。

アメリカの一部の州では、現金の受け取りを企業側に義務付ける法案が出されました。他の州でも同様の動きがあるそうです。キャッシュレス決済専用の店が増えたことにより、スマホを持っていない人や、経済的事情で銀行口座を持てない人たちが不利になっている。それを防止しようという動きです。

日本ではまだ議論されていませんが、スマホを持たない高齢者は多いので、消費増税前後で議題に上がるかもしれません。

キャッシュレス決済のリスクは低いが「スマホ紛失」にはご用心

――最後に、キャッシュレス決済にリスクはありますか。

キャッシュレス決済自体のリスクはそうありませんが、クレジットカードを使った犯罪は増えそうです。盗んだクレジットカードを「PayPay」に登録して買い物をするという不正利用事件はすでに起きています。

キャッシュレス決済はクレジットカードをチャージ元とするサービスが多いため、番号が不正に使われるリスクは認識しておいた方がいいでしょう。対策としては、カードの利用明細を毎月チェックして、身に覚えのない買い物がないか確認することですね。

また、スマホ端末そのものの重要性も高まります。これまでスマホは電話やネットがメインでしたが、そこに『財布』としての価値がプラスされるわけです。スマホを落としてロックが解除されてしまえば、それで買い物をされてしまうかもしれない。物理的なスマホの重要性が今以上に高まってくるので、くれぐれもご用心を。

 


取材協力・三上

ITジャーナリスト。セキュリティ・モバイル・ネット事件を専門とするITジャーナリスト。読売オンラインで一般向けセキュリティ記事を長期連載するほか、テレビ・ラジオなどでのセキュリティ解説も多い。

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